ガールズ・トーク ~いとしさと、せつなさと、
それはサンディが大学に入って間も無い頃の話だ。
ドイツではギムナジウムと呼ばれる中・高一貫の進学校が9年間という長い期間を要するので、大学に入るのは早くても19歳だ。
(ちなみに小学校は4年生、10歳まで)
男子は徴兵制度があるし、女子も1年間研修や奉仕活動、語学留学などをするケースが多く、20歳で大学新入生というのが珍しくない。
サンディもその時、20歳だった。
入学してまもなく知り合った同級生のミヒャエル(男)と知り合った。
偶然だが、ミヒャはサンディの地元からあまり遠くない街出身で、そんな気安さもあり、すぐに打ち解けた。
背がスラっと高く、整った顔立ち。
一目見て、サンディもなんてカッコイイんだろう、と我を忘れて見惚れてしまったほどだった。
一緒に歩いていると、通りすがりの女の子が振り返ったり、じっと視線を投げかけたりする。
しかし、当のミヒャはそんなことには一切お構いなしで、朗らかで親切で感じが良い。
講義を受けるのも一緒、移動するのも一緒、昼ご飯を食べるのも一緒。
話をすればするほど惹き合うものがある、
気が合うなんてそんな生易しいもんじゃない、
すべての感情を分け合うことができる気がする、
お互いに対する信頼感は増すばかりで、
急速に接近していく二人だった。
はっきりとした言葉も態度もなかったけれど、どちらも自分の気持ちを意識し、そしてお互いの気持ちに気付いていた。
気付かずにいることも、気付いていない振りをすることも、もはや不可能だった。
気付きながらも、どっちからもはっきりした次の一歩は踏み出さない。
しかし、そんなことにはお構いなしに、お互いへの気持ちばかりがどんどん膨れ上がっていく。
ミヒャと仲良くなればなるほど、サンディは追い詰められていき、苦しくなっていった。
当時、彼女にはすでに、パートナーがいたのだ。
女性を愛している自分。
パートナーもいるのに、なぜかミヒャのことを思うと胸が苦しくて仕方がない。
そんなはずはない。
自分のことを「こっち側(これはサンディの使った表現そのままです)」に属する人間だと思っていたのに、
こちら側で生きていこうと決めて、ようやく心の平穏を手にしたところだったのに、
ここへ来て男性に恋するなんて、、、。
彼女はひどく混乱していた。
誰かを愛しく思う、
その感情は、
必ずしも相手の性別を限定して芽生えるものではない、
そのことを当時の彼女はまだ知らなかった。
当時20歳のサンディにとって、女性を愛する自分を受けとめるということは大変な覚悟でもあっただろう。
今から10年以上前。
彼女の育った田舎の小さな町では、同性間のパートナーシップはまだまだタブーであったに違いない。
ある週末、サンディは久しぶりに両親が暮らしている地元に帰ることにした。
すると、偶然にもミヒャも両親の居る地元を訪れるという。
どちらからともなく、方向も一緒だし、それじゃあ片方の車で一緒に行こうと言い出し、話はすぐに決まった。
ミヒャの車で彼の地元まで行き、サンディはそこからバスで地元に帰ることにした。
いつものごとく一緒に居ると、話しても話しても話題は尽きず、ただ楽しく、瞬く間に時間は過ぎていく。
気がつけば、ミヒャの地元に着いてからさらに4,5時間が経過していた。
サンディの地元へ行くバスの最終便の時間が迫ってくる。
行かなくちゃ、
でも後ろ髪を引かれる思いで歩き出すことができない。
ミヒャの顔に目をやると、彼も何とも言えない苦悶を顔に浮かべている。
さっきまでのお喋りの勢いがウソのように、黙り込む二人。
必死で言葉を探しているのに、何か言おうとすればするほど、何も出てこない。
まるでしゃべり方を忘れてしまったようだ。
気持ちはちりぢりに引き裂かれ、頭の中では取り止めのない思考が渦巻いている。
グルグルと回っているだけで一向に収集がつきそうにない。
もうだめ、これ以上はここに居られない、バスが来ちゃう、行かなきゃ。
意を決したサンディは立ち去る準備をする素振りを見せた時、
ミヒャが言葉を発した。
サンディ、君にどうしても言わなければいけないことがあるんだ。
オレ、、、、
実はオレ、、、、、
彼女が居るんだ
あ、あ、あ、
あたしも彼女がいるのおぉぉぉ
わぁぁぁぁぁぁ(号泣)
ずっと無理に胸の中にしまい込んでいた感情を一気に解き放ち、
堰を切ったように泣きじゃくる、
もうどうにも止められない状態のサンディ。
その横で、ミヒャはただただ呆然とした面持ちで立ち尽くしていた。
らしい。
あいつは本当にイイ男だわ。
相っ当ショックだったと思うのよ。
なんて言っても、想像だにしていなかった展開じゃない。
でもね、どうにか持ち堪えてたわ(笑)
本っ当にイイ男なのよ。
それ以来、ミヒャは私の一番の親友なの。
いやいや、君も相当イイ女だよ、サンディ